モントゴメリー&ピクレー「土と内臓」

原題「Hidden Half of Nature」、自然の隠れた半分である。自然というと、動物や植物といった目立つものばかり見てしまうが、それらよりはるかに広大な微生物の世界があるという趣旨である。「土と内臓」は、その世界を意味する超訳である。

共著者のモントゴメリー&ビクレーは夫婦で、夫が生物科学者、妻が土壌研究者である。それぞれの専門知識だけに偏ることなく、たいへん読みやすく構成されている。

シアトル近郊で住居を購入した夫婦が庭造りするところから始まる。前の住人が園芸に興味がなく、一面の痩せた土だったところに落ち葉や木材チップ、コーヒーかす、たい肥を入れることにより短期間で豊かな土壌にする。なぜこんなに短期間でできたのか。

それは、目に見えるところではミミズなどの小動物だったり、それをエサにする虫や鳥だったりするのだが、それだけではない。バクテリアをはじめとする微生物の力が大きかったのである。

庭の話から、一転して生物の話となる。かつての生物学は動物・植物を中心とした系統樹的な考え方が主で、単細胞の生物がどのように高等動物に進化したかという観点でとらえられていた。

ところが、DNA解析が進み、生物の違いを遺伝子の差によって分類すると、動物や植物を含めたグループは生物の一部にすぎず、細菌や微生物といったグループがそれ以上のスケールであることが判明したのである。

われわれが地球外生物というと、イメージするのは火星人とかE.T.になるけれども、実際にいるとすれば昆虫であり植物であり、もしかすると微生物や細菌は見えないだけで太陽系内にいないとも限らないのである。

ここ百年ほどで、感染症に対する対策が飛躍的に進み、アスピリンやストレプトマイシン、抗生物質により多くの感染症が激減した。これらの開発にも土壌菌が寄与しているのだが、いいことばかりではない。細菌・ウイルスも進化して耐性を身に付けるからである。

こうした特効薬はいざという時のすぐれた対策ではあるものの、健康を維持するためにはそれらとは別に普段の生活を変えていかなければならない。われわれの大腸は園芸における土と同様、数限りない細菌・微生物の住処なのである。

腸内微生物のはたらきによって、われわれの体調・気分を左右するホルモンが出されることが分かってきた。つまり、われわれの体は脳がコントロールしているのではなく、腸に住む微生物がコントロールしているのかもしれない。

だから、特効薬やワクチンで感染症が激減するのと同時に、昨今われわれの脅威となっているのは腸をはじめとする消化器の不調であり、免疫不全である。これらは、腸内環境の不備が原因と考えられる。庭造りにおいて、土が痩せたのと同じ状況である。

この分野の研究も急速に進んでいて、腸内の微生物がどのような分布で、どのような構成になっているかで、肥満や生活習慣病、アレルギーなどの免疫疾患が説明できるという。少なくとも、体内の土であるところの腸内環境を整えることは、人間にとって死活的に重要なことは間違いない。

本題とあまり関係ないが、この本を読んで思ったのは地球外生物はいるんだろうということ。別に火星人や木星人はいなくても、地中奥深くに微生物がいてもおかしくないと思った。
p.s. 書評過去記事のまとめページはこちら。1970年代少女マンガの記事もあります。

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